伝統的工芸品の「有松・鳴海絞」の技術で、いわゆる板締め絞り『雪花絞』の第一人者で、『張正(はりしょう)』の「鵜飼良彦」さんが84歳で先日お亡くなりになり、告別式に参列させて頂きました。
思えば約10年ほど前に、偶然「雪花絞」というものを資料で見て、たいへんな衝撃を受けました。本当に美しくて素敵で、この技術を藤井絞のオリジナル綿麻に何とか表現して欲しいと思い、お願いに上がったことを式中に思い返していました。
「生地を変えてやったことが無い」「生地のたたみ具合で染料の浸透が変わるので、難しい」「3種類の生地?厚みも特徴も違うし、面倒」など、いろいろなことを仰った記憶が蘇ってきました。そこを何とか、失敗してもいいのでとお願いして、やって頂くことに。
最初は難物も出て、染めのバラつきもありました。初めて扱う生地ですから、様々な苦労もあった事でしょう。藤井絞のオリジナル綿麻は、生地幅は42cm(普通は38cm)と広めで、生地の長さも13m以上の長尺で織っているので、どうしても生地を畳んだ時に幅が広くなります。広くなるということは、平行をとって染めにくい、厚みがでるので染料が浸透しにくいということになります。
扱いだした当初は少しずつ作り、パラパラとしか売れなかった記憶があります。
「昔、あったよねぇ。こんなオシメの柄、店のウインドウには飾れない」などと言われ、正直反応があまり良くなかったです。当時、張正さんの綿の雪花絞と、藤井絞のオリジナル綿麻の雪花絞を混在して扱っていたことも要因があったように思います。綿はどうしてもまとわりついて着にくく、染めに関しては綿麻の方が色が断然きれいで、ボカシ加減も素晴らしかった。
しばらく経ってから鵜飼さんに「藤井絞さんの綿麻は染めると染料の走りがよく、いいかんじに染まりますね」と言われました。
そこで、仕入れの綿の雪花絞をやめて、藤井絞のオリジナル綿麻に特化して取り組みました。
「着やすさ」「涼しさ」「扱いやすさ」を兼ね備えた綿麻に、鵜飼さんの最高の『雪花絞』の技術。扱っている自分自身が感動するものが出来るようになっていきました。
そしてその『雪花絞』は、今から8年前、2006年初夏にお得意先の作られた浴衣雑誌『おさんぽ着』で取り上げられ、2007年には雑誌『七緒』Vol.10の表紙に。
小泉今日子さんも雑誌で「初めて自分で買った浴衣」とお召し頂いてましたね。
その頃からじわじわと問合せが入ったり、動きが良くなってきました。
そして、なんと言いましても、2009年夏。「雪花絞」がサントリー金麦のCMで大きく取り上げられ、桁違いの反応と販売になり、『藤井絞』というメーカーが少しずつ認知され出しました。
http://www.suntory.co.jp/beer/kinmugi/ad/graphic/a/2009/08.html
もうラッキーというより他はないような気分だったのを覚えています。それから、計3年連続で弊社の浴衣をCMで取り扱って頂きました。結果、過去6年間で4枚の実績です。
『雪花絞』のCMの次の年からは、2月の弊社浴衣の発表会に信じられないほどのお客様が殺到し、見る見るうちに反物の山が減っていき、『雪花絞』はほぼ完売に。
びっくりするような体験をさせて頂きました。それから5年ほど経ちますが、毎年変わらずにご愛顧頂いております。
鵜飼さんの『雪花絞』は、繊細で本当にきれいです。その中でも特に、八つ畳みの細かい『雪花絞』の技術は、亡くなられた鵜飼良彦さんにしか出来ないものがあります。
体調が戻って、今秋からお仕事を再開される予定とお聞きしていた矢先のことでした。残念すぎます。
もう見ることが出来ない、再現できないものがどれぐらいありますでしょうか。今お持ちの方は大切になさって下さい。
しかし、以前より娘さんご夫婦がお継ぎになられていますので、伝承している技を守り、そしてまた新たな世界を創って下さると心から期待しております。
最後に今年2月末にご一緒に取材をさせて頂いた記事を。
鵜飼良彦さま。
私は『雪花絞』に出会った10年前と今も変わらず、魅了され続けています。
素晴らしい技術を見せて頂き、本当にありがとうございました。ご縁を頂けたこと、心から感謝しております。本当に幸せでした。
どうぞ安らかにお眠り下さい。
合掌。
雪花絞りは、今年始めて知りました。
着物を着始めたのが、3年前の冬頃でした。
浴衣は、まだ2年ですから、どんな物があるかも、種類さえまだまだ勉強中の、新米です。
何れも、同じ様でも色使い、みんな違って選ぶのに、とても迷いました。今年は、二反購入したところで、来年もまた違った物に出会えるのを、楽しみにしておりましたところ、訃報を聞きました。
残念な事ではありますが、後を継ぐ方がいらっしゃるので、
絶える事が無い事だけが救いです。
ご冥福をお祈り致します。
石川様 いつもありがとうございます。手仕事ですので仰る通り、出来上がりがそれぞれ違いますね。
現在の雪花絞は鵜飼さんが本家ですが、様々な雪花絞も出てきています。今後も期待して下さい。